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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)3056号 判決 1961年10月23日

判  決

昭和三一年第七四一〇号事件(以下第一事件という)の当事者

東京都中央区日本橋兜町三丁目五三番地

原告

辰三商事株式会社

石代表取締役

大谷茂吉

右訴訟代理人弁護士

板谷長太郎

池田清治

東京都港区芝虎ノ門三番地

被告

高砂鉄工株式会社

右代表取締役

稲田作苗

右訴訟代理人弁護士

関口保二

関口保太郎

小林秀正

昭和三二年第三〇五六事件事(以下第二事件という)の当事者

東京都中央区日本橋兜町三丁目五三番地

原告

辰三商事株式会社

右代表取締役

大谷茂吉

東京都江戸川区小岩町五丁目七三二番地

原告

日色輝一

右両名訴訟代理人弁護士

板谷長太郎

池田清治

東京都港区芝虎ノ門三番地

被告

高砂鉄工株式会社

右代表取締役

稲田作苗

右訴訟代理人弁護士

関口保二

小林秀正

右当事者間の各株式名義書換並びに株券交付請求事件につき、当裁判所は、昭和三十六年九月十一日終結の口頭弁論に基き、次のとおり判決する。

主文

第一事件につき

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二事件につき

原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

事実

一、当事者の求める裁判

(一)  第一事件につき

(イ)  原告

被告は原告に対し別紙第一目録記載の被告会社の株式八六、五〇〇株を原告名義に書換えよ。

被告は原告に対し別紙第二目録記載の被告会社の株式四五、〇〇〇株を原告名義に書換え、かつ株券を交付せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

(ロ)  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(二)  第二事件につき

(イ)原告辰三商事株式会社

被告は原告辰三商事株式会社に対し、別紙第三目録中(一)記載の被告会社の株式五、五〇〇株を同原告名義に書換えよ。

被告は同原告に対し、同目録中(二)記載の被告会社の株式九、五〇〇株を同原告名義に書換え、かつ、株券を交付せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

(ロ)  原告日色輝一

被告は原告日色輝一に対し別紙第四目録中(一)記載の被告会社株式一一九、〇〇〇株を同原告名義に書換えよ。

被告は同原告に対し同目録中(二)記載の被告会社の株式一三五、〇〇〇株を同原告名義に書換え、かつ株券を交付せよ。

(ハ)  被告

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

二、請求原因及び答弁の要旨

(第一、第二事件につき包括して記載する)

(一)  原告辰三商事株式会社の陳述

原告辰三商事株式会社は訴外加藤商事株式会社に対し昭年二十九年八月から同年十一月頃の間に五百万円位を数回にわたり融資した。その際右貸金の担保として原告会社は同訴外会社より被告会社の株式を譲り受けた。別紙第一ないし第三目録の各株式はいずれもこれら担保株式の一部である。しこうして、右譲り受については、別紙第一目録及び第三目録の(一)記載の株式については右譲渡人から白地を補充せずかつ裏書をしない方法により株券の引渡をうけ、また別紙第二目録の四五、〇〇〇株及び同第三目録(二)の九、五〇〇株については前記訴外会社より被告会社発行の「預り証」と題する書面(中略)の引渡をうけることによりそれぞれ株式を取得したものである。

その後原告会社は再三被告会社に対し、右各株券についてはその名義を原告会社に書換えるように、また、右預り証による株式については、その名義を原告会社名義に書換えたうえ株券を交付するように請求したのであるが、被告はこれに応じないので本訴第一、第二事件を提起した次第である。

(二)  原告日色輝一の陳述

原告日色は昭和二十九年八月頃から同年十一月頃の間に三沢屋証券という訴外証券会社に株式を担保として百二十万円位融資した。別紙第四目録記載(一)の各株式及び同目録(二)記載の預り証に基く各株式は右担保株式の一部であるが、このうち前者の株式一一九、〇〇〇株については右訴外会社より白地を補充せずかつ裏書をしない方法により株券の引渡をうけ、後者の株式一三五、〇〇〇株については、鈴木明良にあてた被告会社作成の株式預り証(中略)を右訴外会社より引渡をうけるという方法によりそれぞれ譲渡をうけたものである。

しかるところ、原告日色はその後被告会社に対し右株式一一九、〇〇〇株を同原告名義に書き換えること並びに預り証に基く一三五、〇〇〇株を原告名義に書換え、かつその株券を交付すべきことを再三求めたが、被告会社はこれに応じないので、本訴によりこれを求めるに至つたものである。

(三)  被告の答弁(第一、第二事件を通じて)

原告らよりその主張のように本件株式につき名義の書換の請求並びに名義書換及び株券交付の請求をうけ、被告においてこれを拒否したことは認めるが、原告らその余の主張事実は知らない。

被告会社が原告らの右請求を拒否したのは次の理由に基く。すなわち、別紙第一目録(一)、第三目録(一)、及び第四目録(一)記載の株券は、被告会社の元取締役副社長であつた訴外宇都宮綱衛が昭和二十九年八月二十三日被告会社株式課保管中の一片の用紙に過ぎない予備株券一三、二九九枚、一、三二九、九〇〇株分)を持出しこれにそれぞれ架空の株主名を記載してこれを訴外鈴木明良に交付したものの一部であつて、正規の発行手続を経た株券ではない。従つてこれら株券は表象すべき株主権即ち株式が存在せず、また原告らがこれをその主張のようにこれを取得したとしても、善意取得の問題もおきない。

また、原告らが預り証により取得したという株式については被告会社は右預り証の発行日たる昭和二十九年十一月一日頃何人からも株券を預つた事実はないのであるから、原告らの請求に応ずることはできない。

以上の次第で、原告らの請求はいずれも理由がないものと思料する。

証拠(省略)

理由

被告訴訟代理人において、「本件の各株券(別紙第一目録、同三目録の(一)及び同第四目録の(二)記載)は告被会社の予備株券を利用した偽造株券であり、また本件の預り証については、被告会社において真実株を預つてはいない」とそれぞれ主張しているので、まず、これら株券及び預り証の作成された経緯を証拠につき検討する。

この点につき、(中略)照合考察すると、

(1)  被告会社のもと副社長宇都宮綱衛は同会社の約四億円の赤字財政に苦しんでいた際、鈴木明良という元代議士から同会社保管の予備株券を提供すれば二、三億円を融資する、株券は絶対流通させない、という甘言に乗せられ、昭和三十一年八月下旬頃、なんら新株発行の手続もしておらず、また代表取締役の諒解をうけることもなく、同会社が株式の分離、併合をしたり株券が滅失毀損した場合などに取りかえる等の目的のため保貸していわゆる予備株券(百株券)一三、二九九枚(中略)にそれぞれ架空の前島久蔵ほか十一名の株主氏名を記載してこれをその頃、金融の担保として鈴木明良に手交し、右鈴木は流通に回さないという確約に反してさらに融資先たる訴外加藤商事株式会社等に担保として手交したこと、しこうして本件各株券は、いずれも右鈴木明良の手を介し右融資先に流出した前示偽造株券の一部であること。

(2)  その後右鈴木は被告会社の株価の下落に藉口し、被告会社に融資した貸金につき増担保が必要であるということなどを説き、これまた、被告会社に迷惑をかけないという約束のもとに、前記宇都宮に被告会社が名義書換のために株主から株を預つている旨を記載した株券預り証の交付方を迫つた結果、宇都宮において、昭和三十一年十一月一日会社係員をして、被告会社が当時鈴木明良その他の者からなんら株券を預つている事実がないのに、一〇、〇〇〇株分の株券預り証二〇枚、五〇、〇〇〇株分の株券預り証二〇枚合計四〇枚を作成させたうえこれを鈴木に交付し、鈴木は前記株券の場合と同様これを融資先に増担保等として流したこと、しこうして、本件係争株券預り証はいずれも右のように融資先に流出した前示株券預り証四〇枚のうちの一部であること、

等の事実が認められる。もつとも、甲A第八五四号証(被告会社株式課作成の証明書)によれば、別紙第一目録中の小沢祐三名義の各株式が事故株でない旨の記載があるが、証人小川貞三郎(第一回)の証言ならびに弁論の全趣旨によれば、この証明書は前記のように偽造株券を作成交付させた鈴木明良において、前記偽造株券が適法に作成された株券であることを装うための必要上前記宇都宮をして被告会社の係員に作成させたうえ、宇都宮から受領し、これを、前記融資先である加藤商事株式会社に手交し、それがさらに原告辰三商事株式会社の手に渡つたという経緯が看取できるので、前認定の妨げとはならず、他に前認定をくつがえすに足る証拠はない。

よつて、さらに進んで、以上の認定事実を基礎として、原告らの本件各請求の当否につき考えるのに、

まず、原告らの請求のうち株券を取得したことを理由とする各請求については、本件各株券は、前認定のように、なんら正規の発行手続を経ていない株券であり、これに見合う株式ないしは株主権がないのに発行された株券であつて、(正確にいえば、これらの株券は過去において発生した株式につきこれを表象する正規の株券が発行されているのに、ほしいままに会社の一取締役が重ねて発行した二重株券である)、株券自体既に無効のものというべきであるから、この株券発行の事実により株式ないし株主権が発生するいわれはなく、したがつて、原告らがその主張のような動機方法によつてこれを各訴外会社等から、引渡をうけ現にこれを所持していても、これによつて、原告らが各券面相当の株主権を取得することにはならない(ちなみに株券の善意取得に関する商法第二二九条の規定はもつぱら株券の流通過程における救済規定であつて、本件のように、株式は不存在、株券は無効という場合などには到底その適用をみない)。されば、原告らが、違法に株券を発行した者に対し、あるいは本件各株券を担保に供した者らを相手方として、それぞれの民事責任を追及するのは格別、本訴のように株主権の承継取得を理由として被告会社に対し、その名義の書換を求めることは失当というのほかはない。

次に株券預り証に基く原告らの各請求について考えるに、一船論として、記名株式の株主権の承継的取得を理由として会社に対し名義書換え等の請求をするのには、商法第二〇五条による譲渡方法を具備していることを主張立証しなければならないところ、本件原告はいずれも、株券の引渡をうけていないので、その主張自体において既に理由に乏しいものがあるのみならず、原告らの拠りばころとする本件株券預り証なるものは、前認定のように、全く内容的に虚偽のものであつて、当初から被告会社がその名宛人である鈴木明良にすら株券引渡義務を負つていなかつた次第であるから、後に右鈴木、その他の者の手を経て原告らが担保としてこれを入手しても、これにより原告らが被告会社の株主権を取得できないことは理の当然と言はねばならない。

されば、原告らの本訴各請求はいずれも理由がないものとして棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し各主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部 茂 吉

裁判官 伊 東 秀 郎

裁判官 近 藤 和 義

別紙第一ないし第四目録(省略)

(二) 預り証一枚九五〇〇株

(二) 株券預り証三枚一三五、〇〇〇株

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